共通のひとつのレシピを様々な人たちの視点で、料理し読み解き記述してもらう試みです。

レシピのアレンジの記述ではなく、あくまで同じ工程を行いながらも、行間に漏れ出るその人の眼差し、食材とのやりとり、料理の捉え方など、その方の身体性を垣間見ることで、「料理」のもつ広がりを多角的に探る実験です。

 

 

・1年中手に入り(季節によって水分量などの変化はあるが)
・作りやすいもの(小学校の家庭科で一番最初に習ったのが「こふきいも」だった記憶)
として、ジャガイモを使った「こふきいも」を共通のテーマ料理に設定します。

 

<こふきいも 手順(基本)>

いも 洗う/皮むく/切る/鍋で水から茹でる/湯捨てて水分飛ばす/塩

#1 「はらぺこめがね 原田しんやさん」 のこふきいも

 

粉吹き芋
2022年1月7日

 

<材料>

・じゃがいも
・塩
・水
・マヨネーズ
・醤油麹(醤油)

※分量は臨機応変

 

 

じゃがいもをかみさんに買ってきてもらう。
今回は北海道産のスノーマーチと言う品種で、煮崩れしにくい男爵系。大きさは、僕の娘3歳の握り拳ぐらい。

まず、選んだ4つのじゃがいもを水と亀の子たわしで優しく洗い、泥をおとす。そのじゃがいもを皮付きでそれぞれ四等分にする。粉を吹かす時に皮がほどよくめくれてほしかったので、皮と芋の間に1cmほど切れ込みを入れてみる。

片手鍋に、切った皮付きのじゃがいもを投入。そこにたっぷりの水を入れ火にかける。沸騰するまでは強めの火。湯がボコボコしてきたら火を少し弱め、心地いいぐらいの沸騰加減にする。塩茹でにするか迷ったけどやめた。茹でていることを忘れないように、とりあえずタイマーを7分にセット。

 

その間に仕事のメールを1件送る。

 

 

タイマーが鳴ったら、いったん串を刺してみて茹で加減をみる。仕上がりを思い浮かべて、もう少し柔らかくしたほうがよいと判断。追加でタイマーを4分セットして様子をみる。

お皿やマヨネーズなどを用意しながら、盛り付けのことをぼんやり考え出す。気づけば、芋が茹だるいい匂いが部屋中に立ち込めていて、うまい具合におなかも空いていた。

タイマーが鳴ったら再度串を刺して、茹で加減をみてみる。あともう気持ち茹でたくなったので、かすかに揺れるじゃがいもを少しの間見つめる。茹で加減を見極め鍋蓋を利用して、上手に茹で汁を捨てる。
火に戻し、弱めの火で鍋をゆすりながら芋に粉を吹かす。途中で塩をひとつまみふる。火にかけすぎないよう、ゆすりすぎないよう、美味しそうだなと思うところで火をとめコンロから鍋をはずす。

 

 

予想は外れて、ほとんど皮がめくれていなかったので自分で丁寧に皮をめくる。熱いので火傷には注意が必要。全てめくったら芋と皮を、お皿に上手に盛り付ける。そこにマヨネーズと醤油麹を添えたら完成。醤油麹はたまたまあったので添えたけど、マヨネーズに醤油でも良し。マヨネーズと醤油とじゃがいもの相性は抜群なのだ。

実験的に皮をつけて調理したけど、見た目も含めて思った以上にうまくいった。粉を吹いている面と皮をめくったつるんとした面の食べ心地が良くパクパクいける。
箸休め的な役割を担ってくれる皮の存在が嬉しい。もちろん芋と一緒に食べても良いし、つまみにもなる。

まさかだけど、今まで食べた粉吹き芋の中で一番美味い粉吹き芋ができたかもしれない。品種や芋の個性で味わいが結構変化する料理だと思うので芋選び大切。ナイスかみさん。また色々ためしてみたいな。

 

言い忘れていたけれど、盛り付けたあと鍋はすぐ洗うか水につけておいたほうが良い。

 

ごちそうさまおそまつさま。

 

「付け合わせとしての粉吹き芋も、それはそれでいいけれど、ぜひ一度調理からじっくり向き合いながら粉吹き芋を味わってみてほしい。」

 

 

[ はらぺこめがね ]

1983年徳島県生まれの原田しんや、1982年大阪府生まれの関かおりによる夫婦イラストユニット。ともに2005年京都精華大学デザイン学科卒業後、グラフィックデザイナーを経てイラストレーターとして独立。2011年はらぺこめがねを結成、2012年に「フルーツポンチ」(ニジノ絵本屋)で絵本作家デビュー。「食べ物と人」をテーマに、絵本や挿絵、ワークショップ講師等、広く活動をしている。「やきそばばんばん」(あかね書房)で第9回ようちえん絵本大賞、「みんなのおすし」(ポプラ社)で第11回ようちえん絵本大賞特別賞、第30回けんぶち絵本の里大賞アルパカ賞ほか受賞多数。
『おいしいものは うつくしく、人と人とをつなぎ合わせる力があると信じています。』

<食後談>

第1回目を快く引き受けてくださった、はらぺこめがねのお二人は、自分たちで料理を作りそれを描くことを日々されています。料理すること食べることへ日々向けられている愛情ある眼差しが、さりげなく行間からにじむような素敵なレシピをいただきました。
(はらぺこめがねさんのアトリエにて撮影・後日レシピを書いていただいたものを掲載しています)

この「レシピ百景」では「こふきいも」のアレンジの多様性の紹介ではなく、基本の作り方で作っても、その人の身体を通して出てくるレシピにはそれぞれ揺らぎが現れる、その差異を味わおうという趣旨で企画しました。
なので初めは、皮を剥き、塩のみの味付けのこふきいもを皆さんに作っていただくことを想定していたのですが、はらぺこめがねさんと一緒に台所に立っていてその前提はちょっと違うなとすぐに思い直しました。
人には人それぞれの「基本」のこふきいもがある。
同じ工程を繰り返し作って記述するレシピの実験は「今日/の/レシピ」の方でやるとして、こちらではもう少し自由に、その人がいつも作っている、もしくは今作りたいこふきいもを作って記述してもらうやり方のほうが楽しいし味わい深いなと思いました。

実際、はらぺこさんは、その時の気分で皮付きこふきいもの実験に挑戦してくださいました。(この辺の遊び心は、常日頃料理している人の余裕、懐の深さが感じられますね)そしてそれがとっても美味しかった!皮をつまみに、こふきいも本体を食べるのは初めての経験でしたが、新たなる発見に心踊りました。
後日談として、このレシピのこふきいもの美味しさが忘れられず、撮影の後すぐにまた作って食べたそうです。日々実験、日々発見。料理は自由です。(小桧山)