台所に差し込む西陽／顔に当たる湯気／匂いと味／流しに散ったウロコ／よく研いだ包丁の音／薄く切った玉ねぎを透かす／桃のうぶ毛／シンクで囓る種／ぬるい水／内包している時間／地面に足の裏をのせる／根っこの形／土を撫でる／手でふれる／まなざし／チューニングを合わせる／鼻で温度を嗅ぐ／ひらく／脂の焼ける音／勢いのよいテンポ／ひとくちめの味見／完璧な焼き目／ちぎったミントの香り／スナップエンドウの筋を引く／澄んだスープに浮かぶオイル／混ざり合う瞬間の色／こねた生地のなめらかな肌／湯に入れた瞬間の青菜の青／魚の口／レバーの血抜き／真夜中の台所／ひんやりしている粉に手を入れる／カビと宇宙／囓ったチーズの歯型／輪切りの人参のコンポジション／咀嚼音と食器の音／えいよう／透き通る乳白色／変容していく鍋の中／ほどく／口に入れる瞬間の表情／食道を通り胃に落ちていく感触／腑／くうふく／空間のかたち／まんぷく／目をつむって思い出す味／食べ終えた皿／からだ／痕跡／手放す流す／境界線／わからないまま／見えるもの見えないもの／美味しいってなんだろう／食べる営み／ゆらぎの味